arto lindsay interviewアート・リンゼイ・インタヴュー(2004)

インタヴュー:熊谷朋哉
通訳:吉田香織
撮影:南秀樹
協力:前田圭蔵、ビデオアーツ

ノイズと外国語

◎さて、日本で英語が完全にわかる人はそれほど多くありません。でも、歌詞の意味が正確に分からなくても英語の歌を楽しむことは出来ます。貴方の作品のいくつかで使われているポルトガル語も、例えばNYのオーディエンスの大部分に関しては同じことだと思うんですが、国ごとの反応の違いとかはありますか?

「どこの国でもみんな少しは英語ができるから、英語の歌に関してはそれほどは違いはないかな。でも、僕は英語を話さない国で仕事をすることが多い。前にイギリスを何年かぶりにツアーしたらみんなが僕の歌詞を理解しているのでショックを受けた(笑)。そしてこの前にブラジルを久し振りにツアーしてみたらこれも反応が違っていて驚いた。
昔、作詞を始めようと思った時には、その言語が分からなくても女の子を感動させられるような歌を作るのが第一目標だったんだ。言語の持つ可能性で遊ぶのは大好きだ。例えば英語をポルトガル語っぽく聞かせるような唱法を使ってみたり、ポルトガル語はエモーショナルで英語は論理的だと言われているけれど、その特徴をひっくり返そうとしてみたりね。僕のこの言語的なシチュエーションは新しい可能性として、いい方向に利用したいと思っている」

◎ノイズはそこに外国語がない一つの言語でもありますね。そして貴方のノイズには見事なニュアンスがあります。

「そうだね、ほんとにそうだと思うよ。僕はノイズやサウンドの言語を絶えず発見しようとしているつもりだ。でもノイズを単なる一言語として使うわけではなく、ノイズそれ自体の言語として、フォーム、ストラクチャーの方法、そういうものを絶えず考えているね。とはいえ一方、ノイズに言語と違う面もあるのも事実だ。ともかくノイズに於いては純粋な雑音(ピュア・ノイズ)とか、純粋な自由、純粋な空間というような既成概念が強すぎると思うけれど、決してそうじゃなく、そのノイズのなかにもアーティストの意図やスタイルやストラクチャー、色々なアイデアや考え方が入っているんだ。それを指摘して整理する必要があると思っているよ。僕もまだそういうことができているわけではないけれど、みんなに理解してほしいと思うね。
そういえば、ノイズと日本語の粗いニュアンスを表す言葉についてのエッセイを書く機会があったんだけれど、それがサウンドとはちょっと離れた内容になっちゃったんだ。日本語でなんて言ったっけ、ザワザワかな、ゴワゴワかな、ゴシゴシかな?」

◎(アシスタントのヨコサワ)ザラザラじゃないですか?

「それだ! ノイズとザラザラについて書こうと思ったんだ。また機会があったら書きたいね」

◎それは面白そうなテーマですね。楽しみにしてます。

「君が書いてよ」

◎じゃ、一緒にがんばりましょう(笑)。毎回思うんですけれど、とにかく年々ノイズの使い方が洗練されてきているなあと。

「あのね、(キーボードでノイズを多用する)マイカを例に出すと分かりやすいところがあるんだけれど、彼の音楽性はとても純粋で、ノイズの遊びというものを知っているんだ。ノイズは音楽そのものにもなるし、音楽をやってるふりも、音楽を破壊するということも出来る。音楽そのものに対するある種の関係性を確保出来るんだね。そのことについては、先に言ったとおり、絶えず考えているよ」

過去と現在

◎なるほど、それではここで一つの不可能な仮定をさせて下さい。'04年の貴方はDNAというバンドを見たことも聞いたことも、もちろんDNAのメンバーだったこともありません。さて、DNAみたいなバンドが出てきてプロデュースを頼まれました。どうします?

「僕らのDNAくらいオリジナルでブリリアントなバンドだったら、僕はいつでも喜んでプロデュースする(笑)」

◎おお。それでは、DNAの頃の貴方が'04年の貴方を見たらどう思っていたと思います?

「うーん……、僕は年上のアーティストが嫌いということは無かったしね。DNAと今の自分というよりも、過去と現在の関係に関する話だから、真面目に考えると視点を変えるのは難しいことだね。ただ、若い頃は、年上のミュージシャンの作品を経験することが出来ても、その考え方までを理解することは出来なかったね」

◎となると、現在の視点から、過去のプロジェクトについてそれぞれコメントを頂けますか。まずDNAから。

「とにかく沢山話してきちゃったからねえ、どれが現実だったのか、それともどれがフィクションかがわからなくなりつつある。それを答えにしよう(笑)」

◎(笑)。それでは、ラウンジ・リザーズ。

「DNAは完全にオリジナルなことをやろうとしたんだけれど、ラウンジリザーズは、もうちょっと伝統的で、楽器が演奏出来るミュージシャンとなにも出来ないミュージシャンが同時に別々のことをするというプロジェクトだった」

◎ゴールデン・パロミノス。
「関わっていた時間は短いから、語るべき記憶もそんなにないんだけれど、アントン・フィアーと当時はうまくいってなくて、レコーディングがとても辛かったね。今は友達なんだけれど。今聴いてみると悪くない作品が多くて驚いている」

◎キップ・ハンラハン。

「キップとのセッションは学ぶことが多くてとても好きだ。お互いの音楽を本当に良く聴いて、影響を与え合いながらグループの音楽を形作っていくんだ」

◎アンヴィシャス・ラヴァーズ。

「今やってることとそんなに変わってないかもしれないね。このことは内緒にしておいたほうがいいかな(笑)」

(初出:『ThE DIG』YEAR BOOK2005)