lou reed interviewいい温泉を教えろ / ルー・リード・インタヴュー（2004）

ルー・リードがフジにやってくる。昨年の『NYCマン』ツアーによる来日に続き、日本では初めてのフェス登場となる。

昨年のツアーはドラムレス編成。マイク・ラスケはそれほどギターを弾かず、NYのチェロ・メトレス、ジェーン・スカルパントーニが参加し、さらにイースト・ヴィレッジのドラァグ・クイーン・シンガーのアントニー、そして今のルーがハマっている太極拳の先生までもが共演するという実にユニークなものとなった（太極拳の先生のサイト）。

新たな試みに基づく一種の未完成な魅力とその風通しの良さは格別なもので、特に、オリジナル・コンセプトに新たに灯りを点されたかのようなヴェルヴェッツ・ナンバーの素直に歪んだ叙情は感動的だったと言っていいだろう。また、ルーが個性の強いメンバーそれぞれにしっかりと花を持たせた姿も印象に残る。

本文中にもあるとおり、表現意欲に全く衰えの見られない彼は、写真集とエドガー・アラン・ポーを題材にした『ザ・レイヴン』書籍版をそれぞれ上梓。英文科卒を誇り、『カラマーゾフの兄弟』と同じレベルのロックンロールをと公言する男が写真を語りポーを語る。

しかし、この種の真剣なスノビズムにもかかわらず、この人物の知性というべきものは、例えば相手の反応を敢えて楽しむかのようなドスの利かせ方やその身体の歪みや突拍子のなさと言った、一種の逸脱のほうにむしろ存するように思う。というわけで、すぐに話が飛びそうになるインタヴューをどうぞ。

写真を始めたルー・リード

◎２冊組の写真集『Emotion In Action』が出ました。片方の”Emotionsは”一種の風景写真、もう片方の”Actions”は風景の中の様々な動物の写真です。『ザ・レイヴン』とも繋がりの感じられる、いいコンセプトの写真集だと思います。

「本当？　それは嬉しいねえ」

◎写真はいつ頃から始めたんですか？　また、表現手段としての写真についてはいかが思われます？

「20年位前かな。ファインダーを通して見る世界が好きなんだ。被写体の実際の姿よりもカメラを通して見る姿のほうがずっと面白い。まるで映画のようだよ。マジックだね」

◎この写真集はローリー・アンダーソンに捧げられています。彼女の影響も強かったんだろうとも思うのですけれど、そもそも、彼女と出会ったのはいつなんでしょう？

「ドイツでのベネフィット・コンサートだよ。14年前だ。彼女がこの写真集のインスピレーションだ」

◎一方、最新作『ザ・レイヴン』も書籍となって出版されました。装丁も含めて素晴らしいと思います。

「どうしてそんなナイスなことを言うんだい？」

◎もちろん事実だからですよ。書籍を続けて出版されたルーさんに、物語や歌詞を書くこととステージで歌うこととの違い、プラットフォームの違いによる作品の変化について教えて頂くことはできますか？

「書くことは自分ひとりの作業だ。他に誰もいないところで書く。ミュージシャンも、友達も、敵もいない。イマジネーションだけだ。しかしステージは他のミュージシャンとの共同作業だ。みんなで音楽に息を吹き込むんだ」

太極拳のベテランだったルー・リード

◎ロックンロール、書籍、写真、そして今回の太極拳と、多くの表現手段を手にしたルーさんがこれからどのような活動を行っていくのかに興味があります。『アニマル・セレナーデ』ではもちろんのこと、ベスト・アルバム『NYCマン』に於いても過去の名作たちが新たな装いと意味合いを与えられました。ルーさんには、絶えず自身の表現をアップデートしていく若さがあります。

「特別な眼鏡をかけているからね」

◎その若さの秘訣はなんでしょう？

「君はどうしてそんなにナイスなことを言うんだい？」

◎別にお世辞を言っているわけじゃなくて、単にどうしてかを聞きたいだけなんですけど。

「太極拳だよ」

◎昨年の来日公演でルーさんが連れてきたレン先生の太極拳がいろんな意味で大評判で、もしかしたら、日本のロック・ファンの間でも太極拳ブームが来るかもしれませんよ。

「本当？　日本ではレン先生の師匠、チェン先生の太極拳はすごく人気があると聞いてるよ」

◎でもロック・ファンの多くは、ルーさんとレン先生の共演を見るまで、太極拳に興味がなかったんです。

「なるほどねえ。俺は20年前からやっているんだけどな」

◎太極拳を始めたきっかけや、太極拳の効用について教えて頂けます？

「それ以前はマーシャル・アート（武道）を習っていたんだ。そして当時の先生に太極拳を勧められた。俺は太極拳のことは何も知らなかったので、まずは話を聞きに行った。レン先生は俺の胸に手を当てた。２秒後に俺は部屋の隅まで吹っ飛んだよ。先生が“これが太極拳だ”と言うので、是非それを教えて下さいと頼んだんだ。それ以来ずっと続けている」

真面目に太極拳を頑張るルー・リード

◎こないだレン先生に聞いたら、ルーさんは非常に良い生徒ですとのことでしたよ。

「そうありたいと思うよ。太極拳をやっていると精神的にも肉体的にも強くなれるんだ。常に若くいられるし、力が漲ってくる。集中力も増すし、バランス感覚も養える。毎日やっている」

◎毎朝早起きしてやってるんですか？

「時間があるときはいつでもだ。でも、太極拳の話をするとみんなつまらなそうな顔をするんだ」

◎どうしてでしょう？

「知らないよ」

◎表現上のピークを毎回更新していくルーさんを見ているといつも心から驚かされるのですが、ロックンロールと老いの関係についてコメントを頂けますか。

「ロックンロールは大好きだ。好きだからずっと続けている。その理由は好きだからだ。でも俺はエレクトロ・ミュージックも好きなんだ。他にも好きなことがたくさんある。でもロックンロールは好きなもののベスト３に入る」

◎他の２つは？

「太極拳と写真だ。俺はクリエイティヴなことが好きなのさ。クリエイティヴなものと体を鍛えることが好きなんだ」