peter hook interviewピーター・フック・インタヴュー(2008)

インタヴュー: 熊谷朋哉(SLOGAN)

08年はジョイ・ディヴィジョンに何度目かの強い眼差しが注がれた年だった。往年の名作がリマスターで甦り、アントン・コービンによる映画『CONTROL』は成功を収め、そして本人達が当時を振り語る貴重なドキュメンタリー『JOY DIVISION』が発表された。幾度となく語られ、そして分析されてきたあの物語と音源たちが、今も多くの人の興味と感慨とを誘ってやまないという不思議。今回のドキュメンタリーは、その不思議に答える、本人達からのおそらくこれ以上は望むことの出来ない回答の一つであると言えるだろう。

これを機に、ピーター・フックへの電話インタヴューが実現した。ドキュメンタリーでのフックの姿には、相変わらずの口の悪さと茶目っ気とともに、なによりも情の深さのようなものが実に印象に残った。そうか、こういう人物だったのか。それでも筆者は彼がイメージ通りであることに備え(?)、どんな暴言にも対応出来るよう、また暴言の面白さをも期待した質問を用意した。しかし当のピーターさん、実に、本当にいい人じゃないか……。JDと、その周囲の人物への感謝を繰り返して語る彼にある種の感動を覚えるとともに、またもジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダーに対する認識に新たな変更を迫られたようにも思う。伝説は続く。

JDに関することはなんでも好きなんだ

◎以前ピーター・サヴィルにインタヴューしたとき、事前に、決まりきった質問はしないでくれというオファーがあったんです。

「サヴィルはたぶん、ジョイ・ディヴィジョン(以下JD)について話すことに飽きているんだろう。その気持ちはわかる。僕は違う。僕がJDについて話をすることを嫌っていないのは、僕と彼とではJDの大切さが違うからだよ」

◎だって、メンバーですもんね。

「その通りだ(笑)」

◎ここしばらく、そのJDを巡る状況がまた賑やかなものになりました。『CONTROL』、リマスター再発、そしてこのドキュメンタリー『JOY
DIVISION』と、JDを回顧する動きが続いています。これはどうしてでしょう?

「それはもちろん、僕らが素晴らしい音楽を作ったということだ。そして、正直に言えば、シンガーが自殺を図ったことが題材として興味をそそるんだろうね。とてもナルシスティックで、みんなが好きな話題なんだよ。“なぜ彼はあんなことをしたのか?”を誰もが知りたがる。自殺は、当事者以外の人にとってはミステリーだからね」

◎なるほど。

「でも、僕にとって大事なのは音楽だけだ。声を大にして言いたいね。JDの音楽は素晴らしい。時代を超越している。だから今も当時と同じように響くんだ。JDはこの間ずっと大きな影響を与えてきた。だからこその状況だろうね」

◎まずはドキュメンタリー『JD』について言えば、以前によくあったようなセンチメンタルな回顧とは違い、適切な距離感と愛情を持って作られたフィルムであるように思ったんですけれども。

「インタヴューは君が受けるべきだな! 君の方が僕よりもずっと詳しいみたいだからな(笑)」

◎まずはこちらの意見を述べないといけないかなと思いまして。今度はピーターさんの『JD』についての評価を教えて下さいよ。

「素晴らしいよ」

◎おお。

「興味深かったのは、『CONTROL』と『JD』の話が同時に持ち上がったことだ。ひとつを30年待っていたら、もうひとつも一緒にくっついてきたような感じだったね。ドラマ仕立ての映画と、事実を僕たちが語っているドキュメンタリーの両方をほぼ同時に作ったのはユニークな状況だった。こんなことをやったバンドはこれまでなかったんじゃないかな?」

◎確かに、他に例は見当たらない気がします。

「全く異なった2つのものが完璧に成立したんだ。驚いたね。そしてバンドとしてとてもよかったのは、『JD』が映画より先だったぶん、バーナードとスティーヴンと僕の3人がJDの歴史を新鮮に語る機会があったことだ。正直、あそこまで3人で深く話し合ったのは実に20年ぶりのことだった。JDについては話したこともない。今思えば不思議だけど、当時の僕らは目の前のことで手一杯で、自分達の気持ちについて語れなかったんだ。あのドキュメンタリーの中でバーナードとスティーヴンが語ったことで僕が初めて知る事実もあった。あれを観て2人の気持ちが初めてわかったところもある。あんなに長い間ずっと一緒にいたというのにまるでバカみたいに聞こえるかもしれないけれども。これは非常に英国的な現象だね」