lou reed interviewいい温泉を教えろ / ルー・リード・インタヴュー(2004)
インタヴュー:熊谷朋哉
通訳:前むつみ
初出:THE DIG Vol.37, 2004 July
ヴェルヴェッツ、『METAL MACHINE MUSIC』を振り返るルー・リード
◎お達者でなによりです。昨年、私がルーさんにヴェルヴェッツ特集の『The DIG』No.21をお渡しした際、当時の写真を見てとても懐かしそうにされていたのが印象に残っています。あの時代について、'04年のルーさんなりのコメントを頂けますか?
「俺もヴェルヴェッツのメンバーもすごくラッキーだったと思うよ。あの時代に色々な人たちと知り合い、新しい音楽を創り上げることができたんだからね。本当にラッキーだった」
◎ルーさんの過去を総括した『NYCマン』に「Metal Machine Music」が収録されていなかったのが少し残念です。
「あの曲はすでにリマスターし、’01年に完全盤が再発されている。だからその一部をベスト盤に入れる必要はないと思ったんだ」
◎そもそもあれはルーさんの音楽に最初からあったコンセプトを純粋化したものなのでしょうか? 当時の想い、そして、今、あの作品をどのように思うかを改めて聞かせて頂けますか。
「俺はギターのフィードバックのサウンドが好きだった。だから一定のビートを刻みながら、ギターだけで何かやろうと思ったんだ。とてもフリーな感じになるからね。俺はオーネット・コールマンのフリー・ジャズが好きで、彼のようなオープンなフリー・ミュージックにロックのパワーを加えたような音楽をやろうとしたんだ。それがあの曲のコンセプトだった」
◎そのコンセプトは以前から?
「そうだね。ギターのチューニングを変えたり、アンプを変えてフィードバックさせたりしていた。3台のアンプと3本のギターを同時に鳴らし、お互いにフィードバックさせたりしていたんだ。そういう実験的なことをしばらく続けた後、あの曲をレコーディングしたんだよ。最近ドイツのアヴァンギャルド・オーケストラ(Zeitkratzer)と出会ってライヴをやったんだ。ひょっとするとライヴ盤を出すかもしれない」
◎ほう。そういえばオーネット・コールマンは『ザ・レイヴン』に参加していますね。
「ああ、とても光栄だったよ」
◎あのアルバムには、他にもウィリアム・デフォー、そしてジュリアン・シュナーベルといった、ちょっと意外なゲストが参加してます。
「ウイリアムとは以前から友達だった。素晴らしい俳優だ。他はいろいろだね。知り合いだった人もいればそうじゃない人もいる。でもみんな素晴らしいアーティストだ」
エドガー・アラン・ポーを語るルー・リード
◎『ザ・レイヴン』はエドガー・アラン・ポーの同名作を題材にしていますね。
「ポーを若者にも知ってもらいたかったんだ」
◎彼の作品を題材にしようと思われたのはいつ頃からですか?
「アルバムを作る2、3年前からだね。ロバート・ウイルソンと一緒にドイツでやった舞台(『POEtry』)がオリジナルのアイディアになっている。それがうまくいったんで、レコードを作ろうと思った。だが演劇は目に見えるものだがレコードでは耳で聞くものだ。同じものを表現するために書き直したんだが、それにものすごく時間がかかった」
◎ルーさんの作品には、”The Bells”、”A Dream”等、ポーの詩作品との同名作がすでにいくつか存在していますよね。以前からポーを題材にすることを考えていたんでしょうか?
「確かに長年そういうアイディアはあったよ。でも、アルバムにするというアイディアはそのときに浮かんだものなんだ」
◎そもそもポーの作品に興味を持ったきっかけというのはなんだったんです?
「ハロウィーンでハル・ウィルナーとポーの作品を朗読した時、初めて彼を理解したと思うことができた。声に出して読むということはとてもエキサイティングで、ただ本を読むこととは全く違っていた。彼の作品を、声に出して表現したいと思ったんだ」
◎ポーを熱愛したボードレールやマラルメはその”The Raven”を仏訳し、その挿画をマネが描いていたりします。ヴァレリーの熱狂はもちろん、ヴェルレーヌにも”Nevermore”という作品がありますね。世界中の偉大な芸術家たちがポーのあの作品に影響を受けて素晴らしい作品を残しているわけですが、その最大の魅力はなんだと思います?
「それはポーが偉大な作家だからだ。彼のストーリーやアイディアは斬新で、多くのことを創案したんだ。初めてSFを書いたのも彼だと思うよ。そのストーリーの多くは現代社会にも当てはまる。例えば彼は“良くないと分っていることを、どうしてわざわざやるんだ?”と言っている。現代社会にも当てはまるだろう? 興味深い言葉だ」
◎その中でも特に”The Raven”を選んだ理由は?
「あれが彼の最も重要な作品だからだ」
◎なるほど。ポーは、『構成の原理』でその重要な”The Raven”の制作事情を細かく説明しました。読者や批評家に対する効果を想定しながら詩をコンポジションしていく、と。ルーさんの場合、制作にあたってオーディエンスやファンの反応はどれくらい意識しているものなのでしょう?
「俺は自分の為に作品を作っている。俺自身が音楽ファンという立場だから、ファンの気持ちはわかるんだ。アーティストが気に入っている作品ならばファンもそれを好きになるだろう。俺は他人のために音楽をやっているんじゃない。だいたい他人が何を求めているかなんてわからないしね」
デヴィッド・ボウイとミック・ロックとイギー・ポップと温泉とルー・リード
◎『ザ・レイヴン』には旧友デヴィッド・ボウイも参加していますね。彼も先日来日公演を行いましたし、同じく旧友のミック・ロックも元気で、昨年は東京で大規模な写真展を開きました。
「東京での写真展は今までで最高だったと言ってたよ」
◎ミックとはよく会うんですか?
「彼もNYに住んでいるからね」
◎彼の有名な写真で、ボウイとイギーとルーさんとが映っているものが2枚あるんですが(1と2)、発表されている写真の両方でルーさんだけ目を瞑っているんですよ。ということは、この2枚が撮られる間、ずっと目を瞑っていたということですよね。なんでです?
「特に理由はない」
◎ミック・ロックの写真についてはいかが思われますか?
「素晴らしいフォトグラファーだよ。でも当時の実際のところは、彼とはいつも一緒にいたからね、彼がフォトグラファーだという意識はなかったんだ。いい友達としか思っていなかったよ」
◎なるほど。では最後にフジロックについてお聞きします。どのようなステージになるのでしょう?
「友達があのあたりにはいい温泉があると言ってたよ」
◎たくさんありますよ。
「お勧めの温泉をメールしてくれるかい?」
◎わかりました。
「頼むよ」
◎で、フジロックのステージは? どういうセットリストになるのでしょう?
「それは今考えている最中だ」
◎まだ何も決まっていないんですか?
「考えているところだ。でも日本だけのスペシャルなショウになるよ」
◎楽しみにしてます。
「(日本語で)ドーモアリガトウ!」