peter hook interviewピーター・フック・インタヴュー(2008)

インタヴュー: 熊谷朋哉(SLOGAN)

映画によって、3人は自らの歴史を再び辿った

◎自らの歴史を再び辿った、と。

「そう。そして他のメンバーの歴史も再び辿ったわけだ。しかし『CONTROL』の後にドキュメンタリーに取り組んでいたらどうだったかはわからない。『CONTROL』が始まると、僕たちはそのことについての話ばかりをしていたよ。だから順番が逆であれば、『JD』は別なものになっていただろう。とてもラッキーだったよ」

◎メンバーそれぞれの過去に対する見方の違いが興味深いものでした。面白いのは『UNKNOWN PLEASURES』で、この作品を気に入らないということについて、バーナードと貴方が珍しく意見が一致したということでしたけれども。

「当時はプロダクションが気に入らなかったね。まだ若かったから、もっとロックして壁に頭を打ちつけたかった。深みもデリカシーもない。子供だからさ。そこでマーティン・ハネットが深みとデリカシーとを加えてくれた。そのおかげであの作品は30年も生き長らえた。彼には一生頭が上がらないね」

◎あ、そういう認識なんですか。

「マーティンは僕にファック・オフと言い放って彼のやり方でやったわけだからさ、あの曲の数々は彼の賜物だ。もちろん書いたのはマーティンじゃない。でも、彼が曲を不朽のものにしてくれた。僕たちがやっていたことを彼が素晴らしい形で解釈してくれたおかげで、30年経った今も人々は何度も繰り返しその音楽を聴いているわけだ。マーティン、ピーター・サヴィル、そしてトニー・ウィルソンが足並みを揃えてビジネス全体に臨んだ──このユニークさ、彼らがいた僕らのなんとラッキーだったことか! あれは運とテクニックと才能とが思いっきり合致した結果だった。そのおかげで申し分のないものが生まれたが、こんなことを成し遂げられたバンドはそうはいない。もしも今後同じような成功を収めるバンドがいたとしたら、僕は本当に嬉しく思うね」

◎改めて、当時のアルバムに対する見方に変化はありますか?

「『CLOSER』は今もとても気に入っている。『UNKNOWN PLEASURES』は少し聴きづらいね。なぜかわからないけどどうしようもない。JDの音楽は大好きだ。DJをしてJDをかけると、30年前に友達とたった3時間で書いた曲に18歳のキッズがすごい反応を示す。なんという幸福だろう! JDに関係して起こることは全て大好きだ。素晴らしい瞬間が何度も何度も訪れる。正直、それを授けてくれたトニー・ウィルソン、イアン・カーティス、マーティン・ハネット、ロブ・グレットンにはどれだけ感謝してもしきれない。素晴らしいよ」

JDのケミストリー、そしてニュー・オーダーとの違いとは?

◎映画の中の自分は、どう見えるものです?

「JDの外にいた人達には、“君たちは世界を変えた!”と言える特権がある。僕にはない。彼らは外から中を見て、僕は中から外を見る。僕たちの本質については、『24アワー・パーティ・ピープル』のマイケル・ウィンターボトムよりもアントンの方がちゃんとわかってくれていたとは思う。僕は『24アワー』は本質を衝いてはいないが娯楽性はあると思った。誰もが自らに対する他人の解釈に関しては妥協する必要がある。だからあの映画を気に入ったみんなにケチをつけることは出来ない。あの映画は僕に対しても功を奏した。世界中のどこへ行ってもみんながあの映画のについて話すわけで、あれが徐々に真実になっていったんだ。一方『CONTROL』は全く違い、もっとダークな事実に基づいている。アントンは様々な間違いを正した。まだ間違いもあるけれど、映画の娯楽性がそれに勝った。そしてドキュメンタリー『JD』に間違いはない。あれは事実だ。実際に何が起こったかをあのように語ったバンドを僕は他に知らない」

◎あのドキュメンタリーはモダニズムの定義とともに始まります。どうして今もJDはモダンなものと見なされるのでしょう?

「JDの4人にはユニークなケミストリーがあって、それが実証されたということだ。ニュー・オーダー(以下NO)は違っていた。ケミストリーの25%を失くしてしまったわけだからね」

◎何が一番変わりました?

「JDではメンバーが皆同じものを求めていたからね。JDは、決して時代を超えたものを作ろうとなどしていなかった。ただひたすら突き進んだだけだ。簡単なことだったんだ。ところが結婚と同じで、数年経てば人間は変わる。それぞれの理想や野望が変わり、難しくなってくる。JDの時は、まだ全員が同じ方向に前進していたんだ」

今、20歳であれば、ドラッグを売っているだろうね(笑)

◎今、20歳くらいの貴方がマンチェスターにいた場合、どのようなことをすると思います?

「ドラッグを売っているんじゃないかな」

◎なるほど。

「(笑)正直、わからないな。想像すら出来ないよ。今のマンチェスターは当時と比べればかなり変わってしまった。比較にならない。みんながより教育を受け、より世慣れてきた。僕も同じだ。経験も豊富になった。だから想像したくもない。僕は今の時代も、今の自分もとても気に入っている。過去に戻るつもりは絶対にない。ただ、受け継いだものは確かにあるさ。トニー・ウィルソン、ロブ・グレットン、JD、ファクトリーが生みだしたものは、未だに賞賛され、全く変わることがない」

◎過去に戻る必要自体を感じない、と。

「そう。僕には20歳の息子がいて、彼の中には昔の自分がいるね(笑)。彼には僕と同じ過ちを犯さないようにしてもらわないとな」

◎息子さんも音楽をやっているんですか?

「そう。しかし驚いたことに今は勉学に専念している! 言語を専攻して4ヶ国語を話すんだ。僕みたいなアホになるだろうと思っていたのに。一体どこで間違ったんだろうな」

◎端的に言って、貴方は成功したと思います?

「大成功だろうね。僕は不器用ゆえに独特だった、JDでもNOでも、ある程度のことを成し遂げても、また一から始めることを厭わなかった。それが普通のバンドよりも面白いバンドになりえた理由だ。バンドはアーティスティックな成功と金銭的成功とに分けて考える必要がある。僕らは主にアーティスティックな面で成功したけど、それでもいい暮らしが出来た。大成功だよ。新しい音楽を作ればそれを聴いてもらえる機会が与えられたんだから。ラッキーだった」

◎これからの目標は?

「この電話を切ることだ!」

◎もうすぐ切りますから。

「冗談だ(笑)。まあ、食っていくために、ひたすら仕事をすることだね。実際、とても忙しい。ハシエンダに関する本とコンピレーションを作っている。ハッピー・ハシエンダ・ディスコ・ナイトと銘打って世界中でDJをやっている。元ザ・スミスのアンディ、元ストーン・ローゼズのマニと一緒にフリーベースというバンドも始めた……。そして、妻と娘を出来る限りハッピーにしてあげたいね」