tom verlaine interviewトム・ヴァーレイン・インタヴュー(2006)

インタヴュー:熊谷朋哉
通訳:バルーチャ・ハシム(HEADZ)
撮影:Stefano Giovannini - stefpix.com

親子で見るトム・ヴァーレイン

◎さて、久々のライヴは如何でしたか? 

「良かったよ。楽しかったね。ライヴではヴォーカル曲が主体なんだけど、たまにインスト曲を少しやるんだ。インストの曲の中で、即興で歌詞を歌ったりする。インストをやるときもヴォーカル曲をやるときも、バンドは同じ。メンバーは、ドラムにルー・アペル。ヴォーカル・アルバムでも8曲くらいで叩いてくれている。ベースはフレッド・スミス、そして最初の頃から僕のバンドで演奏してるジミー・リップがギターだね」

◎リチャード・ロイドがですね、以前、「トムとプレイするのは、コインを二枚に割って、それが合わさって一枚のコインになるようなものだ」と言ってたんですよ。テレヴィジョンとソロとではプレイの姿勢に違いはありますか?

「特にないよ。でも出てくるサウンドは全然違う」

◎例えばパティ・スミスのバンド等、他のアーティストの作品に参加する場合はいかがでしょう?

「パティとの時には僕は歌わないから、周りの演奏を補うことに徹している。彼女は僕の演奏を気に入っていて雇ってくれてるから、彼女とやるのは楽だね。彼女が唯一僕に文句を言うのは“もっと弾け”ということくらいで(笑)、打ち合わせの必要もないくらいだ。僕は彼女のヴォーカルを邪魔したくないんだけど、彼女はヴォーカルの上にギターを被せて欲しいと言うんだ。でも実は、パティとはそこまでたくさん演奏してるわけじゃない。96年に2ヶ月のツアーに参加したのと、昨年夏に6週間のツアーに参加したくらいじゃないかな」

◎あなたの活動歴も長くなって、昔からのテレヴィジョン・ファンと、新たなファンになったその子どもとが親子でライヴに来たりすることもあると思いますが、そういう時代が来るとは思いましたか?

「一度ライヴでそういう親子を見たことがあるね、両親は78年の僕のライヴを見たことがあったらしい。その子はその時のライヴを気に入ってくれて僕に話しかけてきた。“こういう音楽は見たことも聴いたこともないんだけど、何ていう音楽なの?”だって(笑)。僕は答えた。“ラウドなビートとギターの音楽だよ”。彼は“すごくユニークな音楽だよ。トムさんはあまり他のライヴを見に行かないでしょ?”と訊いてくる(笑)。“確かにあまり見に行かないねえ”。彼は言ってくれたよ。“すごく変わってるし、友達も気に入ると思うからみんなに教えるよ。ラジオでかかってる音楽と全然違う”。彼は19歳、大学に入ったばかりの青年だった。こういうことが起きるとは考えたこともなかったけれど、とても嬉しいことだよ。フェスティヴァルはそういう意味で楽しいね。ヨーロッパのフェスティヴァルでは年配の人も見に来るけれど、75%が若い人だ。僕を知らない人も大勢見に来るし、聴いてもらうチャンスになるよね」

◎世代と同時に、テクノロジーも大きく変わりました。コンピューターやネットワークが一般化し、音楽の世界でもそれは同じです。例えばiTMSによって音楽が売られるようにもなっていますが、音楽への接し方に変化はありますか?

「僕は今でもアナログ盤で音楽を聴くのが好きだ。出来る限りアナログ盤を買うし、どうしても聴きたい作品のアナログがない場合にCDを買う。ソニック・ユースが新作を出したけど、昨夜リーからアナログ盤をもらって嬉しかったっけ。ダウンロードをすることもないね。MP3の音質は、僕の耳にとってはクォリティが低すぎる。今の若者はそれしか知らずに育っているだろうから関係ないんだろうけれどもね。思春期に慣れ親しんだものは、自然に受け入れられることになるだろう。60年代、僕もビーチでトランジスター・ラジオを聴いていたのを思い出すよ。ひどい音質だったけれど、誰もがそれで喜んでいた。若い頃はオーディオ・クォリティはあまり気にならないものなんだよ。iPodはあまりにも便利で魅力的だからね。12歳や13歳にとっては、そちらのほうが重要だろうね」

◎そういう状況のなかで、ご自身の音楽の意味合いに変化はありますか? 音楽の今後はどのようなものになっていくと思いますか?

「少なくとも、音楽を売って生計を立てることは難しくなってきている。ブートレッグで音楽を入手しやすくなっているのは残念な状況だね。無料で音楽が配布されないで欲しいと思うよ。ミュージシャンのポケットに入るお金が減ってしまうからね。今後どうなっていくかは全く見当がつかないよ(笑)」

◎少し角度を変えて、テクノロジーの発達の中で、ギターの位置に変化はあると思いますか?

「最近のギター・サウンドは、ディストーションがどんどん強力になってきているね。ホテルでラジオやテレビをかけていると、デジタル・ディストーションのかかったギターが聞こえてきてどれも同じに思える。ああいうサウンドは68年以前にはなかったよね。僕自身のことで言えば、50年代の頃はエレキ・ギターの音が嫌いだった。ピアノやシンフォニーを聴いていたよ。60年代にジャズを聴き始めた。でもジャズ・レコードにギタリストが参加してると買わなかった(笑)。当時はサックスに比べたらギター・サウンドはかっこ悪いと思っていたんだ(笑)。その後ヤードバーズのライヴ盤にフィードバックが使用されていて、そのラフなギター・サウンドに興味を持ったんだよ。僕の場合、曲を書くために最初はアコギを買って、その後にエレキを手に入れたんだよね」

◎以前コントーションズのジョディ・ハリスに、いわゆるNYパンクのギタリスト達にサーフ・ミュージックの影響が強いのはなぜかと聞いたら、「エレキ・ギターは僕らが若い頃にはまだ生まれたばかりのテクノロジーで、それが生み出すものはマジックだった。サーフ・ギターはそのマジックを最もイノセントに残していた」と言っていたんです(註3)。

「ギターは弾きながら歌うことができる。サックスを吹きながら歌うことはできないだろう(笑)? ギターはピッチをシフトさせたり音符を曲げることができる。音のパレットの幅がとても広いんだ。高音の効いた音もディストーションのかかった音も出すことができる。アイスクリームのいろんな味を同時に味わえるようなものだね(笑)」

◎さて、今後のご予定は?

「また来年アルバムを出したいね。毎年アルバムをリリースするグルーヴに入りたい。今回の新作に入らなかった曲がたくさんあって、そのなかにはまたレコーディングしたいものもある。テレヴィジョンの新曲は既に18曲。暮れにはそれをレコーディングできるかもしれない。僕らもまだレコーディングしていないのに、ライヴで録音されたものがブートで売られちゃってた(笑)」

◎最後にお願いなんですが、日本にもツアーに来てもらえませんか。

「是非行きたいね。日本でのライヴはいつも楽しい。思い出がたくさんあるよ。初来日の時は桜が咲いていてとても綺麗だったな。ある夏は気温が40度、湿度が100パーセントですごく驚いたけど楽しかった。今度は11月くらいに行ってみたい。いい時期だろうと思うよ」

◎インタヴュー、どうもありがとうございました。

「ユーモラスな質問もあっておもしろかったよ(笑)」

(註1)『ユリイカ』1993年4月号・青土社
(註2)アーサー・ラボウ『ニック・ドレイク・ストーリー』(ニック・ドレイク94年国内盤ライナー所収)参照。トムはフェアポート〜やニック・ドレイクを手がけたジョン・ウッドにそれらへの「崇拝」を語ったという。
(註3)ジョディ・ハリス・インタヴュー(『THE DIG』42号)参照